四国・受け継がれる大和魂。空手母国は勝たなければいけない

〜第19回四国・岡山合同強化稽古に密着〜

世界大会やワールドカップで必ず日本のキーマンとなってきた四国勢。今大会も男女会わせて3人の選手が大一番に臨む。
10月2日には、必勝を期しての四国・岡山合同強化稽古が愛嬢県・西条市総合体育館で行なわれた。
19回目を数えるこの強化稽古には、四国や近県のレベルアップを図るとともに、空手母国日本の誇りと志を各世代で共有するという意味合いもある。


空手LIFE 2011年11月号掲載  Text/本島燈家 Photos/増村貴宏


明日の日本を背負う選手を育成するために行われている強化稽古は今回で19回目。回を重ねるごとに参加者は増えている。

「日本の王座を死守する。外国人選手には絶対に負けない。それに尽きます」

世界大会への抱負をたずねると、逢坂祐一郎は迷わず即答した。また、推薦で二度目の出場を決めた野本尚裕も「やるべき仕事をきちっとやりたい」と決意を語った。

近年、四国勢を抜きにして日本代表は語れない。世界大会は個人戦であると同時に国VS国の総力戦だ。個々が勝つことも重要だが、たとえ負けても相手に大きなダメージを与えれば、それが日本の王座死守につながっていく。その点、四国は頼もしい守護神を次々に輩出してきた。世界王者はまだ生まれていないが、時には王者以上に重要な役目を果たし、ワールドクラスの存在感を示してきた。



「リラックス」がテーマという逢坂祐一郎。第8回大会準優勝の実力が再び世界大会で披露される。
 
18歳で初出場を決めた篠原葉子。女子重量級の新星が世界の舞台でブレイクするか。

2009年のワールドカップでは主将として闘った野本尚裕。彼も日本の王座死守のために重要な役割を担う。

活躍の要因の一つには、フィジカル面の強さが挙げられるだろう。逢坂は日本人離れした体躯を持ち、野本には破壊的な威力の下段蹴りがある。また、今回は代表入りを逃したが、やはり海外勢の壁となってきた前川憲司には超人的な打たれ強さと鉄の拳がある。
もちろん体の強さだけでは一流にはなれない。もう一つの大きな要因は、四国が一体となって互いの力を高め合っていることだろう。2007年に四国・岡山合同強化稽古がスタートしてからは、さらにその効果が増した。この合同稽古は年4回のペースで開催され、回を重ねるごとに参加者が増加。世界大会メンバーの激励も兼ねて10月2日に行なわれた19回目の稽古には90名以上が集結した。
「空手は一人では強くなれないので、この合同稽古は魅力的です。若い選手は強い先輩と稽古できますし、自分たちも若い選手や少年部ががんばる姿を見ることでがんばれる。相乗効果ですね」(野本)

しかも、この稽古を統率するのは選手強化委員長であり、日本代表総監督でもある三好一男師範。かつて“大和魂”の異名をとって世界大会を闘った師範は、精神的支柱とも言える存在だ。稽古中は多くを語らないが、参加者には自然に空手母国としての誇りや志といったメンタル面での共有意識が芽生え、浸透していく。



強化稽古は午前11時にスタート。午後3時30分まで続いた。ユース世代も世界大会メンバーたちに果敢に挑んだ。

逢坂と野本が熟い組手を展開。組手は2分×30ラウンドも行なわれた。
 
総指揮をとるのは日本代表総監督でもある三好一男師範。

ハードな組手が終了した後、世界大会、全日本クラスの大会に出場するメンバーたちによる道場20往復のダッシュが行なわれた。

2007年にはじまった四国・岡山合同強化稽古。日本代表メンバーを激励する意味もあった今回は90人を超える参加者が集結した。

 

合同稽古には、やる気さえあれば誰でも参加できる。その理由を「富士山のすそ野は広いほうがいいから」と師範は説明する。

「すそ野が広がれば、てっぺんも高くなる。どこに原石が眠っているかわかりませんし、このような場があるからこそ才能も磨かれる。日本は海外から来た選手に『やっぱり富士山は高い。とても登れない』と思わせ続けないといけないんです。だから今回の世界大会も勝たなければいけない」

空手母国の不敗神話を守るために四国で生まれた潮流は全国に広がり、今では関西をはじめ各地で合同稽古が行なわれるようになった。2005年に誕生したユース・プロジェクトとともに、日本全体のレベルアップに直結していることは間違いないだろう。

とはいえ、そんな日本の力をもってしても今大会の海外勢は強敵だ。必然的に逢坂と野本にかかる期待も大きくなる。逢坂は順当に勝ち上がれば三回戦でローマン・ネステレンコと激突する。

「日本の名誉を守るために闘います。ただ、そのプレッシャーで心や体が動かなくなるのは避けたい。自分のテーマは、いかに“リラックス”できるか。今は(準優勝した)8年前の世界大会よりもリラックスできていると思います」



豪華な指導陣が前方に立ち、基本稽古からスタート。

型の探求には定評がある香川中央支部の原内卓哉支部長が「十八」をわかりやすく指導。

岡山東支部の石原延支部長のテクニック講座では、自分より大きな相手との攻防に重点が置かれた。


今回は代表から漏れたが、前川憲司も日本を背負って闘ってきた一人。四国の仲間のために体を張って協力していた。
 
世界進出を目指す酒井瑞樹も野本との組手で多彩な技を見せる。

篠原がワールドカップ4位の実績を持つ先輩・竹澤剛にぶつかる。竹澤からはウエイトトレーニングのコーチも受けている。
 
疲れ切った体を体力系のメニューでさらに追い込む。

 

野本のブロックにもジョルト・バログなど強豪がひしめく。

「世界大会はみんな強いですから、初戦から集中しないといけません。お互いが勝ち上がれば四回戦で塚本選手と闘うことになりますが、自分の使命はまずそこまで勝ち上がることだと思っています」

最近は下段の威力を高めるため、体の背面の筋力強化に努めてきた野本。そのトレーニングで得た自信と“気負いすぎない”という精神面の調整も意識したことで、主将として出場した2年前のワールドカップの時よりもはるかにコンディションはいいという。

「責任は感じていますが、今までとは感覚が少し違う。平常心でいけそうな気がします」

18歳で女子代表となった篠原葉子も「外国人選手には何としても勝たないといけない」と、初出場とは思えないほど強気の姿勢で決戦の日を待つ。「野本先輩のように下段を効かせて勝つのが理想」という重量級の新星は今大会で一気にブレイクするかもしれない。

大会当日、ケガなどのハプニングがなければ、今回も四国勢がキーマンとなる可能性は高そうだ。



少年部、壮年部も30ラウンドの組手を完遂。

今年最後の強化稽古。道場内には最後まで大きな気合いが響いた。

最後は恒例のサーキットトレーニング。前に立ったユースメンバーたちが軽快な動きとスタミナを発揮。

少年部も9種目×5セットのサーキットメニューをやり抜いた。

稽古終了後、四国の日本代表メンバーが抱負を語り、参加者たちからエールが送られた。

強化稽古が行なわれた西条市総合体育館。